注目を集めている”アルムナイ制度”が企業にとって必要なのでしょうか?
近年、注目を集めている採用の手法として「出戻り社員の再雇用=アルムナイ制度」が注目を集めています。
実際、出戻り社員を受け入れるのかの議論は多くの企業でよくあるのではないでしょうか。
ほとんどの場合はこのような議論はオープンにはなっていないものの、過去に退職した元社員が相談をしてきたり、応募をしてくるケースがあるのではないでしょうか。
また、特に地方などの場合は、元社員側の観点に立っても、そのエリアで働ける会社は限られているため、出戻りは有効な選択肢として考えられています。
そんな出戻り社員の再雇用ですが、近年はベンチャー企業や大手企業でも着目されるようになってきています。
これらの企業では、ネガティブなイメージもつきまとっていた従来の「出戻り社員の再雇用」といった呼び方ではなく、よりポジティブに新しい採用手法というイメージで「アルムナイ採用」と言われています。
このアルムナイ採用はメリットも多くコストも低いので検討する企業が徐々に増えてきています。
この記事ではそんなアルムナイ制度について、プロの採用コンサルタントである「株式会社プロ人事」のコンサルティングチームが注意点を含めてメリットやデメリットを解説していきます。
1.アルムナイ制度とは
従来は大学などで用いられていましたが、近年は人事・採用の現場で「出戻り社員の採用」という意味でこの言葉を使うことが増えています。
リクルートなど一部の企業では、優秀な人材を契約社員として採用し、契約満了まで働いた場合、祝金を払うように退職そのものを前向きに捉えている風潮もあり、このような流れの中でポジティブなものとしてアルムナイ制度が注目されてきました。
ただ、名前は変わってもその中身は結局、「出戻り社員の再雇用」であるため、従来、出戻り社員の採用を行っている企業すればなんら目新しくもないものと考えられてしまいがちです。
実際に、「出戻り再雇用をした企業は全体の7割を超えている」というデータもあるほどですので、出戻り社員の再雇用そのものは新しくはありません。
では、なぜ今になってアルムナイ制度が注目されているのでしょうか?
また、アルムナイ制度と従来の「出戻り社員の採用」は全く同じものなのでしょうか?
次に「アルムナイ制度」が注目をされてきている理由を元に、その特徴などを解説していきましょう。
①アルムナイに関する会社の考え方を明文化
従来は出戻り社員の再雇用は会社としても認めているのか認めていないのかわからないグレーのものである場合がほとんどでした。
一方でアルムナイ制度の場合には、企業側が採用の新たな手法として考えているため、制度の概要などをしっかり明文化するようになってきました。
また、アルムナイ制度から応募する専用の窓口を用意して積極的に進めていく風潮に変わってきています。
このように制度としての規定をしっかりと設け、窓口を設ける事によって、会社がアルムナイ制度を認めているということを内外にしっかりと示すようになったのです。
また、この傾向が進んでいくことで、退職時の伝え方も変わっていきました。
主に退職が決まった社員とのやりとりにおいて、退職が決まった人材を雑に扱わずに、出戻りをしてほしい人材にはその旨をしっかり伝えることで、アルムナイ採用につなげようとする動きが活発になっています。
実際に、退職した社員の気持ちに立ってみても、在職中は隣の芝は青く見えるように競合他社がよく見えることがありますが、転職してから現実を知り、元の会社に戻ることを考えることはよくあるパターンです。
そういった場合、どうしても元社員は後ろめたい気持ちになってしまい、なかなか出戻りを元いた会社に相談することを躊躇してしまうケースが多くなっています。
だからこそ、会社としてアルムナイ制度をしっかりと明文化することによって、出戻りを公式に認めているということをメッセージとして伝えることが重要なのです。
②人材採用の難化のため、採用手法の1つとして
少子高齢化の中での労働人口の減少に伴って採用難易度が上がっている中で、優秀な人材を確保するために一つの採用手法に頼るのではなく様々な採用手法を組み合わせることで目標人数や人材の質を確保する風潮が強まっています。
選択肢の一つとなりうる新しい採用手法の一つとしてアルムナイ制度の活用にも注目が集まっています。
実際に、優秀な人材を採用することは非常に難しくなっていっています。
また、元いた社員の場合、その社員の能力値などは充分に把握できているはずです。
そういった意味では、人材の見極めも出来ているため採用手法としてアルムナイ制度は確立しやすいとも言えるでしょう。
③採用ブランディングの1つとしてのアルムナイ制度
従来の終身雇用は、日本型雇用の悪しき伝統といったイメージとなっています。
その結果一つに企業で長く働くという観点が薄らいできています。
これには、良い面、悪い面がありますが、事実として終身雇用の観点が薄らいでいます。
だからこそ、応募者には「アルムナイ制度」が魅力に映るのです。
実際にまだ入社していない人からみた場合、アルムナイ制度を導入している企業であれば、入社してから退職した後に「やっぱりこの会社が良かった」と言うことで戻りやすい雰囲気である。
これ自体が応募者から見た場合にメリットなのです。
つまり、採用のブランディングとしてこの制度はとても効果的な手法なのです。
もちろん、元社員がアルムナイ制度を利用し、再度入社を希望したとしてもスキルや人柄が良くなれば落とせば良いだけです。
これらを踏まえると、実はアルムナイ制度は、手軽にブランディングを行う手法としてかなり効率的な手法なのです。
2:よくあるアルムナイ制度活用の事例
それでは、次は良くあるアルムナイ制度の事例についてをご紹介していきます。
①退職時に何年間か有効な内定通知書を渡しておく
アルムナイ制度を用意したとしても、出戻りを恥ずかしいと思う人が非常に多く、その点がこの制度を運用に載せる上で最も大きな課題の1つです。
また、会社としては「ぜひ戻ってきて欲しい」という社員にも関わらず、その社員としては「出戻りのために応募して落ちたら嫌だ、恥ずかしい」と思う人もいます。
そういった場合に堂々と胸を張って会社に戻ってきてもらえるように予め「内定通知書」を渡すケースがあります。
これは、アルムナイ制度の中でももう一つ進化しているもので、単に出戻り社員を受け付けるというだけでなく、特定の社員には「内定」であることを予め約束をして内定を出してのです。
こうすることで、
また、社員の立場からしても新たな会社等でうまく行かなかった際に保険として戻ってこれる場所があることで安心感につながります。
②アルムナイ制度パンフレットを渡しておく
アルムナイ制度専用の選考フローをパンフレットとして制作し渡しておくと元社員としてもアルムナイ制度の活用のハードルも下がりスムーズになります。
正規の制度としてアルムナイ制度を離職者や社内にアピールしておくことで社内の理解にも繋がりますし、実際に戻ってきてくれる可能性も高くなります。
③アルムナイ面談・同窓会
選考ではないという建前でのアルムナイ面談や同窓会を行います。
アルムナイ面談については、「選考ではない面談窓口」というような体を示して、元社員からの連絡を待つことによって、元社員も連絡しやすい形を用意しておきます。
また、元社員や人事、現メンバーが集まるような同窓会等を開催するのも良い方法です。
悩みや何かあったらいつでも連絡してきてね、という風に離職後も積極的に離職者と接点を持ち続けることでアルムナイ制度で戻ってくる展開にスムーズに繋げることができます。
このような手法を用意しておくことで退職後もつながっておくことができますし、繋がっていなくてもアルムナイのことをしっかり伝えた上で退職した社員は少なくとも自社に対してポジティブなイメージを持ち、退職者の悪い口コミを防ぐことにもつながります。
本人としても戻れるところがあると安心なので是非活用していきたい制度です。
3:出戻り社員の再雇用(アルムナイ制度)を行う6つのメリット
次にアルムナイ制度における6つのメリットを解説していきます。
メリット1:社内業務や文化に精通している(即戦力として活躍が期待できる&研修コストが掛からない)
当然ながら出戻り社員はよほどの短期間での離職者でない限り、一度自社に所属していた人間として最低限の仕事の進め方や企業文化などを把握しています。
そのため、研修に時間をかけずにスムーズに活躍を期待することができますし、普通の中途社員を採用することに比べたら研修コストをかなり抑えることができます。
メリット2:他社のノウハウを得ている
転職先のノウハウを保有している点は大きなメリットです。
自社の知見を持ち外部のノウハウを持っている人材は非常に貴重です。
しかし、単純にノウハウを持っているだけではなく、そのノウハウをしっかりと社内にも浸透させていく土壌が整っているのが、アルムナイ制度のメリットと言えます。
アルムナイ制度を公式に認めていない場合は社内においてアルムナイが冷遇されてしまうリスクが有り、社内で彼らを軽視してしまうことで外部の知見が社内にたまらないことがあります。
自分はずっとその会社に尽くしてきたのに出戻ってきた人間が評価されている、などと社員が反発することは非常によくある事例です。
アルムナイの社員の扱いや評価のされ方に関しては社内で十分に検討すべき問題です。アルムナイをどのように扱っていくのかについて正しい答えはなく、会社によってアルムナイをどこまで重視していくのか、どのように扱っていくのかに応じてケースバイケースで慎重に制度や環境の整備を行っていく必要があります。
メリット3:再採用後のミスマッチが生じにくい
他社を把握した上で自社に戻ってきているので、自社の良いところ悪いところをある程度把握した上で戻ってきており、採用後のミスマッチは生じにくいと言えます。
アルムナイの社員は他社の良いところも悪いところも知っているので、一見辞めにくい構図ではあるものの、だからといって一概に辞めないわけでもなく、その人自身にやめ癖がついている場合など場合によってはむしろ辞めやすい人材もいます。
そのような場合には戻ってきても結局また辞めてしまうことになります。
しかし、実態としては出戻り後は辞めにくい傾向があるのは確かでしょう。
他にも良い会社があるんじゃないかと退職したが戻って来ているわけですから、そう簡単には辞めないのです。
メリット4:広告費・人材紹介料がかからない
アルムナイ制度は求人広告や人材紹介ではないので、外部に出ていくコストがかからないのは大きなメリットと言えるでしょう。
求人広告であれば一回数十万、場合によっては100万円ほどかかってしまい、最悪の場合そこまでのコストをかけても採用できない場合もあります。
一方人材紹介であれば、紹介に成功した場合に年収の35%ほどの報酬なので、仮にアルムナイのような人材を紹介してもらう場合200万円ほどのコストがかかってしまいます。
そのようなコストを抑えられると考えればコストパフォーマンスはかなりいいと言えるでしょう。
しかし、アルムナイ制度では一切コストが掛からない訳ではありません。
アルムナイ制度を作るコストや形骸化させないコスト(人件費)が大部分を占めます。
あくまでも社内の制度なので、外部に出ていくお金は0円ですが、実際に数が少ない中でうまく運用し続けられる企業も少なく、当社のようなコンサルティングを使って運用するのか一般的になっています。
メリット5:他社員の退職リスクを下げられる可能性がある
自社に対する不満を持っており他社への転職を考えている社員が、他社を見た上で自社に戻ってきている人を見ることで、自社も捨てたものではないんだなと、改めて自社の価値を見直すことがあります。
また、他の社員はアルムナイ社員とのコミニュケーションを取る中で、他社と比較した自社の良いところ、他社の実情などを知ることができ、離職意向が下がります。
一方でアルムナイ社員の言い方や捉え方などによってその効果は逆にも働きかねません。
例えば自社を一度出たことで自分の見方が広がったからよかった、などの言い方をするのであれば逆に退職を勧めることになります。
しかし、普通に考えれば、他の会社も見た上で、自社に戻っている訳ですから、その姿をみた他の社員は「この会社は戻ってくる価値がある会社なんだな」と感じて退職の気持ちが減少するでしょう。
さらに、ポイントとなるのは、アルムナイ社員が出戻りにおける面談などで、他の社員への説明についての注意点などの話はしておくべきです。
コントロールはせずに意識づけを行うのが理想的ですが、離職を勧めないと約束してもらうなど、具体的な話をするのも効果的です。
メリット6:円満退職の実現に寄与
あまり取り上げられることは少ないですが、意外と大きなポイントなのが、円満退職の実現に寄与できる点です。
退職をする場合、一見どれだけ円満に退職していたとしても、転職の場合であれば、何かしらネガティブな要素はあることがあります。
その場合ネガティブな口コミにつながってしまう場合もあり対策が必要です。
アルムナイ制度を導入することで、退職時にアルムナイの制度を伝達し、アルムナイのネットワークを作る、あるいはオフライン上でのイベントなどコミニュケーションを取っていくことで、退職者からの印象がよくなり、会社に対する採用における評価を含めさまざまなビジネス上のメリットが得られます。
卒業した人が企業して元いた会社と取引をするなど、退職者と会社の良好な関係を保つことにつながります。
4:出戻り社員の再雇用(アルムナイ制度)を行う2つのデメリット
ここまでではアルムナイ制度における6つのメリットを解説してきました。
当然ですが、アルムナイ制度にはメリットしかない訳ではなく、デメリットも存在します。
このデメリットに関しては、しっかりと把握した上でアルムナイ制度の導入を検討していく必要があります。
デメリット1:既存社員から反発を受ける
この既存社員からの反発がアルムナイ制度における最大のデメリットです。
判断としても非常に難しいのがこのポイントです。
特に制度そのものではなく、退職した特定の人をなぜ、受け入れたのか?という点での反発が大きく挙げられます。
例えば、能力の高い人が退職後、3年程度経過した後に戻ってきた場合、以前のその出戻り社員の後輩との関係性や役職などはどのようにすべきでしょうか?
3年前も後輩だったので、出戻り社員の下につけるべきか…
そうすると後輩としては、「この会社では自分の方が歴が長い!」と反発を覚えてしまう可能性もあるでしょう。
同列に暑かったとしたら、出戻り社員側が「ビジネスマンとしては私の方が歴が長い、その上、他社のノウハウも知っている!」と感じるでしょう。
このようにアルムナイ制度で出戻ってきた社員と既存社員の取り扱いが非常に難しく反発を受ける可能性があります。
出戻る側も受け入れ体制が整っていなければ戻ってこないですが、受け入れをうまくやらないと多くの既存社員にインパクトを与えてしまうことになります。
受け入れるアルムナイの少人数に対して、多くの人数に悪い影響を与えてしまうのは大きな損失になります。
とはいえ、課題な心配は必要ありません。
実際に出戻り社員の採用においてのアンケートではとても良い・まあまあ良いを合わせると「83%」が肯定的に捉えています。
デメリット2:形骸化してしまう…
また、形骸化してしまうという失敗例も良くあります。
100人や200人規模の会社ではアルムナイ制度で戻ってきたいと表明する社員は数年に1人程度だったりもします。
その1人を採用するために制度を維持し続けるのは難しい場合あります。
また、そのくらいの頻度になってしまうと、組織のメンバーがこの制度を軽視するようになり、いつのまにか形骸化してしまうこと多いです。
数字で見えにくいので続けるインセンティブが働きにくいですが、アルムナイを積極的にやっていますとアピールすることで先進的な会社であるなど採用のブランディングにつながることもあるため、できれば積極的に運用していきたい制度です。
現状アルムナイだけで採用を大きく成功させるのは難しいですが、低コストで大きくブランディングにつながるという意味で是非導入・運営することをおすすめします。
まとめ
プロ人事は採用全般業務のコンサルティング会社です。アルムナイ制度の専門の会社ではありませんが、制度の設計や運用まで幅広くサポートを行っています。アルムナイを組織として導入したいと思っている企業があればぜひプロ人事へお問い合わせください。